大阪高等裁判所 昭和56年(う)1376号 判決 1984年4月19日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、神戸地方検察庁検察官検事本井甫作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、被告人Y1関係につき弁護人中東孝、同矢野弦次郎、同阪本豊起共同作成の答弁書、被告人Y2関係につき弁護人田中秀雄、同宮崎定邦共同作成の答弁書各記載のとおりであるから、これらを引用するが、当裁判所は、所論並びに各答弁にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調の結果をも参酌して、以下のとおり判断する。
第一、控訴趣意の要旨
一、原判決の要旨
原判決は、被告人両名に対する本件公訴事実中、別紙原判示罪となるべき事実記載のとおり、被告人Y1に対する暴力行為等処罰に関する法律違反、威力業務妨害、傷害、器物損壊の各事実(原判示罪となるべき事実第一の一ないし七)、被告人Y2に対する暴力行為等処罰に関する法律違反、威力業務妨害、窃盗、公務執行妨害の各事実(同第二の一ないし四)、被告人両名に対する暴力行為等処罰に関する法律違反、公務執行妨害、傷害の事実(同第三)については、ほぼ公訴事実どおりの事実を認定し、被告人Y1を懲役一年六月に、同Y2を懲役一年に処し、被告人両名に対しいずれも三年間それぞれ右各刑の執行を猶予する旨の有罪の判決を言渡したが、「被告人両名は、昭和五一年五月一五日午後一一時三五分ころ、神戸市<以下省略>付近の神戸市道中央幹線西行車道において、ほか多数の者らとともに、別紙原判示罪となるべき事実第三の大型輸送車(車両総重量六一一〇キログラム)を後方に向けて押していたところ、被告人Y1は、同車を約七メートル後退させた際、同車の後方約九メートルの後退進路上に昏倒しているA(当時四〇年)を認め、被告人Y2は、右Aを認めた周囲の群衆から発せられた『人が倒れている』などとの警告によつて、人が同車の後退進路上に倒れていることを知つたが、被告人両名とも右Aを殺害する意思をもつて、ほか数名と共謀のうえ、さらに右多数の者とともに同車を押し続けてこれを後退させ、同車右後車輪で右Aの身体を轢過して同人に肝臓破裂等の傷害を負わせ、よつて同日午後一一時四五分ころ、同市<以下省略>葺合警察署三宮センター派出所において、右傷害により同人を死亡するに至らせて殺害したものである」との殺人の公訴事実(以下本件殺人の事実ともいう)については、右事実に関する主要な証拠として原審において検察官が取調請求をした被告人Y1の司法警察員(九通)及び検察官(九通)に対する別表(一)記載の各供述調書、被告人Y2の司法警察員(八通)及び検察官(二通)に対する別表(二)記載の各供述調書(一部については別表(一)(二)記載のとおり被告人両名相互間で刑事訴訟法三二一条一項二号該当書面として請求されているもの)の全部または一部(本件殺人の事実に関する部分)の証拠能力を否定し、証拠調請求を却下した原裁判所の昭和五六年三月一〇日付証拠決定(以下本件決定という)を前提とし、原審で取り調べられた各証拠によつては、本件殺人の事実の証明は十分ではないとして、結局被告人両名に対し、右事実について無罪の言渡しをした。
二、本件決定の要旨
本件決定は、以下の如き理由により、別表(一)、(二)記載の各供述調書(その全部の証拠能力を否定された調書についてはその全部を、本件殺人の事実に関係する部分のみの証拠能力を否定された調書についてはその否定された部分のみを指す。以下とくに断らない限りこの例による。)の証拠能力を否定し検察官の証拠調の請求を却下した。
(一) いわゆる別件逮捕・勾留と呼ばれる事例において、その身柄拘束の許否は、捜査官がそれをもつぱら本件の捜査に利用する意図を有し、ただ別件に藉口したに過ぎない場合は格別、捜査官において別件についても捜査する意図のある以上、別件についての逮捕・勾留の要件の有無によつて決せられるべきであつて、捜査官が本件についても取調べの意図を有しているからといつて、右逮捕・勾留がただちに違法となるものではなく、被告人両名に対する本件身柄の拘束がいわゆる別件逮捕・勾留として違法であるとはいえない。
(二) 刑事訴訟法一九八条一項は、逮捕・勾留中の被疑者に対し、逮捕・勾留の基礎となつた被疑事実(以下逮捕・勾留事実という)に限つて取調受忍義務を課した規定であると解される。ところで、逮捕・勾留中の被疑者を逮捕・勾留事実以外の事実(以下余罪という)について取り調べることを一概に非難することはできないが、余罪の取調べは被疑者に取調受忍義務のない任意捜査であるからという理由で、いかなる余罪であろうと、無制限に取り調べることができると解すべきではなく、被疑者に取調室からの退去の保障があることを十分に理解させ、実際に被疑者が右保障を行使しうる雰囲気のもとに取り調べる場合、あるいは被疑者が積極的、自発的に余罪の取調べを求めた場合のみを任意捜査と認め、右の場合に該当しないと認められる余罪の取調べは、むしろ取調受忍義務を課した状態で行われる強制捜査であると認めたうえで、強制捜査における事件単位の原則に一定の修正を加え、一定の範囲、程度の余罪の取調べは強制捜査としても許容されると解するとともに、その範囲、程度を越えた余罪の取調べは違法というべきである。その許容範囲は、強制捜査に対する司法的抑制の手法である令状主義、事件単位の原則の見地に立つて、個々の事例ごとに、当該余罪と逮捕勾留事実との社会的関連性の有無及び強弱、両罪の事案としての軽重、取調態様等の諸点を総合的に考察して判断すべきものである。
(三) 以上の観点にたつてみると、本件における被告人両名に対する余罪の取調べはいずれも強制捜査であつたと認められるところ、被告人Y1は、原判示罪となるべき事実第一の一と同一の被疑事実(以下bタクシー事件ともいう。)により逮捕・勾留(以下第一次逮捕・勾留ともいう。)され、二回にわたり五日間づつの勾留期間延長決定を受けた後、引き続き同第一の二、三、四、六と同一の被疑事実で再逮捕・勾留(以下第二次逮捕・勾留ともいう。)されていた(ただし、第二次逮捕・勾留事実中には、本件殺人の事実及び右事実と密接に関連する原判示罪となるべき事実第三の事実(以下本件輸送車襲撃事件ともいう。)と同一の被疑事実が含まれていたが、弁護人が申し立てた勾留に対する準抗告についての決定において、右両事実に関する勾留は、実質上勾留のむし返しに該当するとして勾留から三日後に原勾留の裁判を取り消したうえ勾留請求を却下している。)期間中に、被告人Y2は、原判示罪となるべき事実第二の一(以下cタクシー事件ともいう。)及び第二の三(以下dタクシー事件ともいう。)の両事実で逮捕・勾留中に、いずれも逮捕・勾留事実と異なる余罪、なかでも本件殺人の事実について取調べを受け、その結果別表記載の各調書が作成されたもの(ただし、被告人Y1の別表(一)番号16ないし18の各調書は、家庭裁判所の検察官送致決定により観護措置が勾留とみなされる期間に作成されたものであり、また被告人Y2の別表(二)番号9、10の各調書は、逮捕・勾留に引き続いた家庭裁判所による観護措置中に作成されたもの)であるところ、被告人両名に対する各逮捕・勾留事実と本件殺人の事実とは社会的事実としては関連するが、逮捕・勾留事実についての取調べが余罪の取調べにもなるほどの有機的密接な関連性はなく、それぞれ別個の各事実毎に完結する犯罪であること、本件殺人の事実以外の余罪は、逮捕・勾留事実と対比して、罪質、態様が同種で、軽重の程度も同程度ないしより軽微であつて、被告人両名も争つておらないが、本件殺人の事実は、逮捕・勾留事実に比しはるかに重大で罪質も異なる犯罪であること、被告人Y1の取調態様についてみるに、第一次逮捕・勾留期間中の大部分を客観的資料がないのにもつぱら自白を得る目的で行つた本件殺人の事実についての取調べにあてたうえ、第二次勾留につき本件殺人の事実に関する部分が前述の如く準抗告決定により勾留請求を却下されたにもかかわらず、なお第二次勾留期間中に本件殺人の事実の取調べを続行しており、また被告人Y2の取調態様についてみても、捜査官において、もつぱら自白を得る目的で本件殺人の事実についての取調べを行つているばかりでなく、右事実について取り調べる意図を秘し、「殺人なんかつけへんから心配するな。」と詐言を用いた取調べを行つていること、以上の各事実を総合すると、被告人Y1の第一次、第二次各逮捕・勾留中の被告人Y2の逮捕・勾留中の被告人両名に対する本件殺人の事実についての取調べは、余罪の強制取調べとして許容される範囲を逸脱して違法であり、かつその違法は重大であつて右取調べによつて得られた証拠は証拠能力を欠き、被告人Y2の観護措置中に作成された別表(二)番号9、10の各調書も逮捕・勾留中の違法な取調べによつて得られた供述が大きく影響していることが明らかであるから、証拠とすることはできない。(なお、被告人Y1の別表(一)番号16ないし18の各調書については、本件決定中において却下の理由が明示されていないが、被告人Y2の別表(二)番号9、10の各調書と同様の理由によりその証拠能力を否定したものと解される。)
三、控訴趣意
原裁判所の以上の判断に対し、論旨は、以下のとおり、被告人両名に対する本件殺人の事実についての取調べに何らの違法も存在しなかつたことが明らかであるから、被告人両名の別表(一)(二)記載の各調書(ただし、被告人Y2の昭和五一年七月二九日付、同月三一日付各検察官調書合計三通という(控訴趣意書一五ページ九、一〇行目)のは合計二通の誤記と認める。)の証拠能力を否定し、その取調請求を却下した本件決定には、訴訟手続の法令違反があり、右各調書は、本件殺人の事実を認定するための主柱となる証拠であつて、右証拠と原審において取調べずみの関係証拠とを総合すれば、本件殺人の事実は優に認定することができるのであるから、その違反が判決に影響を及ぼすことは明らかである、と主張するのである。
すなわち、刑事訴訟法一九八条一項但書は、被疑者が逮捕又は勾留されているという状態に着目して取調受忍義務を課した規定と解すべきであつて、特定の犯罪事実ごとに取調べの限界を定めたものと解することはできず、また逮捕・勾留中の被疑者に対する余罪の取調べが一般に禁止されているものではない。ただ、外形的には甲事実についての逮捕・勾留による身柄拘束状態を利用して乙事実について取調べを行つたようになつてはいても、甲事実による逮捕・勾留が単に名目であつて、実質的には乙事実による逮捕・勾留と同視し得る場合であるとか、甲事実についての逮捕・勾留の理由、必要性が消滅したのに、その身柄拘束状態を利用して乙事実を取り調べるような場合には、憲法三三条の令状主義を潜脱するものとして許されないが、甲事実による逮捕・勾留が令状主義の理念に則つており、かつ勾留の理由、必要性が存続する限り、乙事実の取調べをしてもそれによつてあらたに被疑者に身柄拘束状態が生ずるものではないから、なんら令状主義の理念に反するものではなく、そのように解するほうが、被疑事実ごとに逮捕・勾留を繰り返し、身柄拘束状態を長期化させる弊を防止することにもつながる適切な解釈といわなければならない。
これに反し、前述の如く、余罪の取調べは原則として任意捜査で行うべきであり、強制捜査と認められる余罪の取調べの許容限度は、逮捕・勾留事実と余罪との社会的関連性の強弱、事案の軽重、取調態様等を総合的に考察して判断すべきであるとして、その限度を越える余罪の取調べを違法とする本件決定は、独自の見解であつてその誤りは明白である。
もつとも、昭和五二年八月九日最高裁判所第二小法廷決定(刑集三一巻五号八二一頁)には、逮捕・勾留事実と余罪との間に「社会的事実としての一連の密接な関連がある」旨の説示があるが、これは当該事件の事実関係に即応して、余罪に関する取調べが逮捕・勾留事実についても当然しなければならぬ取調べにあたることを説示したもので、一般的に余罪の取調べが許されるための要件として判示したものと解すべきではない。
また本件決定は、被告人両名の取調態様をもつて、被告人両名に対する本件殺人の事実の取調べを違法とする理由の一つとしているが、右両名に対する取調状況を代用監獄における出入監の状況、調書の作成状況等によつてし細に検討すれば、いずれも逮捕・勾留事実による身柄拘束状態を利用し、本件殺人の事実についての自白を得る目的でもつぱらその取調べを行つたものではなく、単に逮捕・勾留事実の取調べに付随して本件殺人の事実の取調べを併行して行つているにすぎないことが明らかであつて、本件決定は、右の点において事実を誤認しており、さらに被告人Y2の取調べに際し、捜査官が本件決定の指摘するような詐言を用いたこともないから、結局本件決定は以上の点で前提事実を誤認し、別表(一)(二)記載の各供述調書の証拠能力に関し誤つた判断に至つたものである。
以上によれば、被告人両名の本件殺人の事実に関する供述を記載した別表(一)(二)記載の各供述調書はすべて証拠能力を有すると認められ、これを否定した本件決定には、訴訟手続の法令違反があり、前述の如くこれが判決に影響を及ぼしていることは明らかであるから、原判決は破棄を免れず、本件殺人の事実と原判決が被告人両名に対し有罪を言渡した別紙罪となるべき事実とは併合罪の関係にあるから、右有罪部分についても併せて控訴を申し立てる。
第二、当裁判所の判断
当裁判所は、以下に詳述する如く、別表(一)(二)記載の各供述調書は、いわゆる別件逮捕・勾留中の違法な取調べの結果獲得されたか、またはその違法性を承継した証拠であつて、かつその違法性は、令状主義の潜脱という重大なものであるから、いずれも証拠能力を欠くと認めたものであつて、理由づけにおいて原裁判所の見解と若干異なるが、結論において、右各調書に証拠能力を認めず、検察官の証拠調請求を却下した本件決定は、結局正当であり、右決定を前提として本件殺人の事実についての証明の有無を判断した原判決に、所論の訴訟手続の法令違反は認められないと判断した次第である。
一、被告人両名に対する取調べの経緯
(一) 被告人両名の取調開始に至るまでの経緯
原審において取り調べられた関係証拠によれば、被告人両名が、本件殺人の事実について取調べを受けるに至つた経緯として以下の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(1) 神戸市においては、例年五月に、e協会主催のa祭りが開催されていたが、昭和四九年度及び昭和五〇年度に連続して、その期間にいわゆる暴走族と見物の一部群衆が暴徒化し、警察官に投石するなど種々の騒ぎが発生したため、昭和五一年五月一四日から同月一六日までの昭和五一年度a祭り期間中の不測の事態発生に備え、兵庫県警察(以下単に県警という。)本部は、同月一四日に暴走族防圧対策本部を設け、B県警交通部長を総指揮者として連日一〇〇〇名を越える警察官と多数の車両を動員して、違法行為の防圧に努めることとした。
(2) ところが右a祭り期間中の同月一五日夜から翌一六日早朝にかけて、国鉄f駅に近い神戸市葺合区小野柄通や同市生田区加納町一帯に暴走族とこれを見物しようとする群衆約六〇〇〇名がい集して騒然とした状況となり、遂には通行中のタクシーを転覆させて放火するなどの行為に及ぶに至つた。そこで、防圧対策本部では、大型輸送車で警察官を現場に急行させるなどの措置をとつて違法行為の鎮圧に努めたが、群衆の数が多く、同時多発的に同様の行為が発生したこともあつて、少数の警察官が現場に出動した場合には、かえつて興奮した群衆から投石などの襲撃を受け、警察官らの身体にも危険が及ぶという事態になつた。
(3) 右の如く騒然とした状況下の同月一五日午後一一時ころ、前記住所<省略>付近でbタクシー事件等が発生したため、その約三〇分後に右現場に派遣された大型輸送車(兵○ち○○○号―以下本件輸送車ともいう。)に乗車していた警察官らも、秩序回復行動をとるためいつたん降車したものの付近の群衆から石や木の棒で攻撃を受け、危険を感じて本件輸送車の幌付荷台に再度乗車して退避したが、同車の運転をしていた警察官も右荷台内に避難した。そのため、同車は、同所付近の幅員約二〇メートルの広い神戸市道中央幹線西行車道の南寄り部分に前部をやや西南に向けた状態で立往生をしたような状態となつた。
(4) これを見た暴走族グループや群衆が同車の周囲を取り囲み、さらに一部の者が同車に投石したり、後部荷台の警察官を木の棒で突いたりするなど、共同器物損壊、公務執行妨害、傷害の各行為(本件輸送車襲撃事件と同一の事実)に及び、遂には午後一一時三五分ころ同車の前部付近及び車体側面に取りついてこれを中央分離帯に向けて後方に押し、その際たまたま同所付近で取材中に群衆から暴行を受け、路上に昏倒していたg新聞社カメラマンAを同車車輪で轢過して死亡させる事件(本件殺人の事実)が発生した。
(5) このような事態となつたため県警本部では、翌一六日ただちに葺合警察署内に「a祭りにおける暴走族等による殺人放火事件合同捜査本部」(本部長は、当初前記B交通部長であつたが、六月一八日県警刑事部長に交代した。)を設置し、捜査を開始した。捜査開始当初から、右捜査本部では、A記者死亡事件は、群衆犯罪ではあるが、群衆のなかには、A記者昏倒の事実を知りながら本件輸送車を押し続けた者が存在するはずであり、その者については殺人罪が成立するとの見通しを立てたことにより、本件殺人の事実は、昭和五一年度a祭り開催中に発生した他の器物損壊、威力業務妨害、公務執行妨害、傷害等を含む一連の事犯中で、罪質、態様、法定刑等いずれの見地からも他と比較にならない重大な位置づけを与えられることになつた。そして、たまたま被害者がマスコミ関係者であつたことや、犯行に供された物が警察車両であり、しかもその運転者が避難に際し、サイドブレーキをかけていなかつた事実が判明したことなどのため、連日新聞紙等がA記者殺害の元凶と目された暴走族を非難するとともに警察官の手落ちを指摘する記事を掲載し、兵庫県議会でも県警の責任問題が取り上げられ、当時の社会的関心も本件殺人の事実に集中するというような事情が重なり、前記捜査本部は、何よりも本件殺人の事実の犯人捜査に全力を上げて取り組まざるをえない状況に置かれた。そのため県警本部では交通部所属の警察官以外に凶悪犯担当の刑事部所属の捜査官らをも含め多数の警察官を動員して、本件殺人の事実の捜査に従事させ、犯人解明に総力を挙げることとなつた。
(6) 右捜査本部の基本的な捜査方針は、本件殺人の事実の発生した現場付近の当夜の写真(捜査官が撮影したもののほか、マスコミ関係者や一般人の撮影したものを含む。)を、時間的前後を問わず、できうる限り多数収集し、これに聞き込み捜査を併用して、約二、三十名と推定される本件輸送車を押した人物の特定につとめ、特定しえた者に対しては、A記者が路上に昏倒していた事実を認識しながらこれを押し続けたか否かについての取調べを行つて殺人罪を立証しようとするものであつたが、これに併せて、昭和五一年度a祭りの際に発生したタクシーに対する転覆、放火等多数の違法行為の容疑で逮捕した約一五五名のほとんど全員に無作為的に本件殺人の事実に関するポリグラフ検査(その質問事項が本件殺人の事実に関するものであつた事実は、直接の証拠こそないが当審における事実取調べの結果により優に推認することができる。)を実施し、その検査結果から本件殺人の事実に関与している者を割り出そうとの努力もなされた。
しかしながら、群衆によつて行われた突発的な犯罪であるという本件殺人の事実の特質から、目撃者や写真の数は多いものの、犯行に関与した人物の特定と殺意の有無に関する捜査は、いずれも困難を極め、難航する情勢となつた。
(二) 被告人Y1に関する取調べの客観的経過
原審で取り調べられた関係証拠、当審において取り調べた被告人Y1に関する留置人出入簿謄本、同被告人の司法警察員に対する供述調書五通及び検察官に対する供述調書三通(いずれも本件決定において証拠能力を否定されたものであるが、当審において供述経過を立証趣旨として取り調べたもの)、並びに被告人Y1の当審公判廷における供述を総合すると、同被告人に対する取調開始からその終結に至るまでの客観的経過として以下の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(1) 被告人Y1(第一次逮捕当時一八才一一月)は、昭和四九年三月からCの経営する自動車修理工場に修理工として勤務するかたわら、定時制の神戸市立h高校に通学していたものであつて、前科前歴は、全くない。同被告人は、昭和五一年五月一五日午後九時ころ友人とともにa祭りに現われる暴走族を見物するために出かけ、群衆心理に駆られて原判示罪となるべき事実第一及び第三各記載の如きタクシーに対する共同器物損壊行為等の犯行に及んだが、その際の着衣は、仕事用の上下一体となつた白の作業衣(いわゆる鉛管服)に白い作業帽というはなはだ特徴あるものであつた。
(2) 同月二一日、二二日の両日にわたつて新聞にbタクシー事件の現場写真が掲載され、同写真中に同タクシーを蹴つている白い鉛管服の男が写つており、これを見た被告人Y1の雇主であるCは、ただちにこれが同被告人であることに気付き、その両親及び学校に連絡したうえ、両親と関係教師を交え同被告人を問いただしたところ、タクシーを蹴つたり投石したことを認めたので、相談のうえ、同月二二日午後七時ころ前記高校の教諭三名において、東灘警察署に赴き、新聞に出ている写真の鉛管服の男は、同校生徒の同被告人であつて、本人も届け出て欲しいと言つているので届ける、明二三日には同行して出頭させる旨事情説明を行つた。
(3) 他方、前記捜査本部においても多数の捜査員を動員して前記捜査方針に基づき、主に新聞に掲載された写真から被疑者の特定につとめていたが、前記(2)の如く被告人Y1に関する届出があつたため、同人の取調べを永年殺人、強盗等凶悪犯の捜査に従事し、同月一七日ころから同捜査本部に編入されていたベテラン警察官であるD警部補(県警刑事部捜査第一課所属)に担当させることを決定し、命を受けたD警部補は、同月二三日午前一〇時ころ被告人Y1の自宅に赴き、「a祭り事件のことで聞きたいので県警本部まで一緒に来て欲しい。」と言つて、あらかじめ覚悟をしていた同被告人と両親の了解を得て、同被告人を県警本部に任意同行した。
(4) D警部補が、県警本部に到着後ただちに、参考人取調べの形式で五月一五日夜から同月一六日早朝にかけての被告人Y1の行動を聴いたところ、任意同行当日の午後四時ころまでの間に、同人は、友人とa祭りを見物に行き、国鉄f駅南側の交差点の付近でbタクシーを転覆させようとしたり、そこへ来た本件輸送車に投石したり、押したりしたほか、数台のタクシー及びバスに投石したり、派出所や警察署に投石したりしたことなど原判示罪となるべき事実第一記載の各事実のほか、本件輸送車を押したことを率直に認める供述をした。そこでD警部補は、午後四時ころから、黙秘権を告知したうえ、同被告人の身上関係とbタクシー事件に関する簡単な自白を内容とする供述調書を作成し、午後七時三〇分ころbタクシー事件を被疑事実とする通常逮捕状を請求して、同日午後八時ころ神戸地方裁判所裁判官から逮捕状の発付を受け、午後八時二五分同被告人を逮捕し、県警本部留置場に留置した。逮捕後に作成された弁解録取書には、右被疑事実のほか、警察のトラツクに投石したり、押したり、交番に投石したことを認める旨の供述が記載されている。
(5) D警部補は、翌五月二四日から被告人Y1に対する本格的取調べを開始したが、同日から同月二六日同被告人に対し神戸地方裁判所裁判官からbタクシー事件を被疑事実とし、刑事訴訟法六〇条一項二号、三号を勾留理由とした勾留状が発せられるまでの三日間には、同被告人の五月二四日付司法警察員に対する供述調書二通を作成したほか、同月二五日に、同被告人本人に自筆で、同月一五日夜から一六日早朝にかけての同人の行動の詳細について、長文の説明書(同被告人の昭和五一年六月五日付司法警察員に対する供述調書〓本文三丁の分〓にその一部が添付されているもの)を作成させた。右二四日付供述調書のうち一通(二二丁の分)はもつぱらbタクシー事件に関するものであつたが、他の一通(六丁の分)には極く簡単ではあるものの、警察の大型トラツクに投石したり、多くの人とトラツクを倒そうとして押したりついたりした旨の供述が含まれ、さらに右説明書には、被告人Y1が本件大型輸送車に遭遇し、投石したり押したりした状況の詳細がB4判白紙二枚に記載され、ことに本件輸送車を押した際、その進行方向に人が倒れているのを見て手を離し、離れて見ている時に人が轢過されるのを目撃したとの本件殺人の事実に直接関連する具体的記述がなされている。
(6) 同月二六日、前記勾留状が発付された後の同月二七日から同月三〇日までの四日間には、連日長時間にわたる取調べが行われたものの、供述調書は、司法警察員に対する同月二七日付のもの二通及び検察官に対する同月二九日付のもの一通が作成されたのみであり、同月二七日付供述調書のうち一通は、起訴外の事実であるiタクシーを転覆させたりしたことに関するもの(四丁)、他の一通は、被告人Y1の五月一五、六日の行動順序を略図に従つて説明させたもの(本文二丁)であり、同月二九日付検察官調書は、被告人Y1の身上、経歴及びa祭り見物に出かけるまでの行動についての供述を内容とするもの(一〇丁)で、いずれも長時間の取調べを要しないと考えられるものばかりである。
(7) 同月三〇日には、被告人Y1は、午前一時二五分から午前四時五〇分までの間「見分のため(葺合管内)」との理由でD警部補の要請により代用監獄から出房し、本件殺人の事実発生の現場に臨んだ。同所で行われた実況見分では、同被告人の指示説明に基づき、本件輸送車を押した状況、人の倒れていた位置、手を離した状況等を同型車を用いて再現し、距離の測定などが行われ(昭和五一年六月四日付実況見分調書…昭和五一年七月一五日付検察官請求証拠目録番号5―不同意により撤回)、また同日ころ、本件殺人の事実に関し、同被告人に対し、ポリグラフ検査が実施された。
(8) 五月三一日は、一日中本件殺人の事実についての取調べが行われ、午前中は、被告人Y1が本件輸送車を押しているとき、人が倒れているとの声で手を離したのか、倒れている人を見て手を離したのかについての問答があり、午後、短時間であるが、中東弁護人の接見があつた後、午後四時ころから取調べが再開されたが、その際同被告人が本件輸送車を押した事実自体をも否認するような供述をしかけたため、D警部補は、こういうことやつておると暇ばかりかかつてどうするつもりかよく考えよと厳しく叱りつけ、同被告人が涙ぐむようなことがあつた後、押している時に人が倒れているのを見たがそのまま押し続けたとの供述がなされ、その結果同日中に供述調書二通が作成され、午後九時四五分ころ取調べを終了した。右調書中の一通は前記iタクシー事件に関する簡単な調書(二丁)であり、他の一通は、本件殺人の事実に関する右の如き供述を内容とするもの(六丁―別表(一)番号1の調書)である。
(9) 右供述後の六月一日から、二回にわたる各五日間ずつ合計一〇日間の勾留期間延長を経由して、六月一四日午後七時四〇分に本件殺人の事実を含む被疑事実により再逮捕されるまでの一四日間の被告人Y1に対する取調状況は、連日午前九時ないし一〇時ころから午後八時ころまで、最も遅い時間としては午後一一時ころまで警察官及び検察官の取調べが続けられ、合計一二通の警察官調書、七通の検察官調書が作成され、右各調書のうち九通の警察官調書、四通の検察官調書が本件殺人の事実に関するもの(別表(一)番号2ないし13)であつて、とくに六月一日から同月五日までの間は、七通の供述調書中本件殺人の事実以外の事実のみに関する調書は、六月一日付検察官調書(二丁)、六月五日付警察官調書(五丁)だけで他の五通(合計丁数三九丁)は、いずれも本件殺人の事実、とくに人が倒れているのを見ながら、本件輸送車を押し続けて轢過した状況に関する詳細な供述を含むものであつた。
なお、右六月一日以降の警察官調書の冒頭記載の被疑罪名は、別表(一)記載の如く、本件殺人の事実関係で請求されているものについては、すべて「公務執行妨害等」となつており、五月三一日までの警察官調書に記載されている被疑罪名「暴力行為等処罰に関する法律違反等」(逮捕・勾留事実)と明確に区別されて記載されている。(もつとも、検察官調書は、第二次逮捕に至るまで一貫して後者の罪名が記載されており、右の如き区別はなかつた。)
またその間被告人Y1は、以上の供述調書のほか、六月三日、同四日の両日にわたり、bタクシー事件以降の同被告人の行動を詳細に説明し、本件殺人の事実についても詳しく触れた自筆の説明書(昭和五一年六月五日付警察官調書六丁のものに添付)を作成し、さらに同月一三日午前三時一五分から午前六時一〇分の間には再び実況見分に立会し、同被告人が本件輸送車を押し続けた状況を再現した。
(10) 被告人Y1は、六月一四日午後六時五分いつたん釈放されたが、引き続き本件殺人の事実を含む原判示第一の二、三、四、六及び第三の事実と同一の事実を被疑事実とする逮捕状により逮捕され、同月一七日右と同一の事実について神戸地方裁判所裁判官から勾留状が発付されたが、右勾留に対し弁護人がした準抗告について、同月一九日同裁判所は、六月一日以降同月一四日までの第一次勾留期間中には、もつぱら本件殺人の事実及び原判示第三の事実についての取調べがなされ、この間の勾留は、実質的にはこれらの事実についての勾留と認められるから、これらの事実に基づく第二次勾留は勾留のむし返しになつて許されないとの理由で右各事実に関する勾留請求を却下し、その余の事実について勾留を認める決定をした。
(11) 右第二次勾留期間中(六月一七日から、同月二六日に神戸家庭裁判所が被告人Y1について観護措置決定をするまで)には、警察官調書は一通も作成されず検察官の取調べが主体であつたが、本件殺人の事実に関しては、六月二四日付供述調書二通が作成され、その余の事実に関する供述調書が三通作成された。
(12) 被告人Y1は、六月二六日、原判示罪となるべき事実第一の一ないし六、第三及び本件殺人の事実について神戸家庭裁判所に送致され、右各事実についての観護措置決定を経て、七月六日右事実につき身柄拘束のまま検察官送致決定を受け、同月一三日に追送致された原判示罪となるべき事実第一の七の事実を加え、同月一五日(本件決定中〓三〇六七丁表〓に一三日とあるのは一五日の誤記と認める。)に右全事実について神戸地方裁判所に起訴されたが、右起訴の直前の七月一四日、同月一五日に各二通ずつの検察官調書(うち三通が本件殺人の事実に関するもので、別表(一)番号16ないし18にあたる。)が作成されている。その後同月一九日、同被告人は、保釈許可決定により釈放された。
(13) 以上の取調経過のうち、被告人Y1が六月二六日家庭裁判所に送致されるまでの取調状況の要約は、次表のとおりである。
月日
出入監の時刻
(時・分)
出監時間
(約)
出入監の理由
(取調状況)
本件殺人の事実について
請求されている供述調書
上記以外の
供述調書等
5・23
入21・30
第一次逮捕
警察官調書一通
(bタクシー事件)(四丁)
弁解録取書
5・24
9・35~12・30
13・30~20・0
二時間五五分
六時間三〇分
取調
警察官調書二通
(一通は身上経歴等、
他の一通はbタクシー事件)
(六丁及び二二丁)
5・25
9・55~12・45
13・50~20・10
二時間五〇分
六時間二〇分
取調
説明書作成
検察庁送致
弁解録取書
5・26
9・45~11・30
12・30~17・15
一時間四五分
四時間四五分
取調
第一次勾留手続
勾留質問調書
5・27
10・0~12・0
13・30~19・55
二時間
六時間二五分
取調
警察官調書二通
(一通はiタクシー事件、
他の一通は行動順序)
(四丁及び二丁)
5・28
9・35~13・40
15・10~19・40
四時間五分
四時間三〇分
取調
5・29
14・0~18・0
四時間
取調
検察官調書一通
(身上経歴等)
(一〇丁)
5・30
1・25~4・50
10・45~10・55
16・0~20・0
三時間二五分
一〇分
四時間
実況見分立会
この頃ポリグラフ検査
取調
5・31
9・0~12・0
13・15~14・40
16・10~21・45
三時間
一時間二五分
五時間三五分
取調
別表(一)番号1の供述調書
警察官調書一通
(jタクシー事件)
(二丁)
6・1
10・10~12・0
13・0~20・10
一時間五〇分
七時間一〇分
取調
同2の供述調書
検察官調書一通
(bタクシー事件)
(二丁)
6・2
9・20~12・0
13・25~23・0
二時間四〇分
九時間三五分
取調
同3の供述調書
6・3
10・25~12・0
13・30~20・45
一時間三五分
七時間一五分
取調
6・4
9・30~12・0
12・45~20・30
二時間三〇分
七時間四五分
取調
第一回勾留延長
同4の供述調書
6・5
9・40~12・0
13・0~18・40
二時間二〇分
五時間四〇分
取調
同5・6の各供述調書
警察官調書一通
(原判示罪となるべき
事実第一の二の事件)(五丁)
6・6
9・0~12・10
13・0~13・45
14・0~18・45
三時間一〇分
四五分
四時間四五分
取調
警察官調書一通
(原判示罪となるべき事実第一の三
ないし七の事件)(二六丁)
6・7
10・15~12・0
12・45~21・0
一時間四五分
八時間一五分
実況見分立会
(葺合警察署内)
取調
同7・8の各供述調書
6・8
9・45~12・30
13・15~22・10
二時間四五分
八時間五五分
取調
警察官調書一通
(iタクシー事件)(三丁)
検察官調書一通
(前記第一の二の事件)
(二一丁)
6・9
11・0~18・30
七時間三〇分
取調
第二回勾留延長
同9の供述調書
警察官調書一通
(同級生に話したこと等)
(四丁)
6・10
10・20~12・5
15・0~19・55
一時間四五分
四時間五五分
取調
6・11
10・35~14・50
17・0~19・35
四時間一五分
二時間三五分
取調
6・12
9・20~11・55
13・45~17・40
二時間三五分
三時間五五分
取調
同10の供述調書
6・13
3・15~6・10
12・40~18・10
二時間五五分
五時間三〇分
実況見分立会
検察官調書一通
(bタクシー事件)(一九丁)
6・14
9・55~11・45
12・50~18・0
出18・5
入20・30
一時間五〇分
五時間一〇分
釈放
第二次逮捕
同11・12・13の各供述調書
6・15
なし
6・16
9・50~12・25
15・5~18・35
二時間三五分
三時間三〇分
検察庁送致
取調
警察官調書一通
(身上経歴等)(四丁)
弁解録取書
6・17
9・20~18・20
九時間
第二次勾留手続
取調
勾留質問調書
6・18
10・10~12・25
13・45~17・40
二時間一五分
三時間五五分
取調
6・19
9・30~18・40
九時間一〇分
取調
検察官調書一通
(前記第一の三ないし五の事件)
(一三丁)
6・20
4・15~5・55
一時間四〇分
同行見分
6・21
9・40~12・40
14・20~18・10
三時間
三時間五〇分
取調
6・22
4・45~5・50
12・20~20・20
一時間五分
八時間
実況見分立会
取調
検察官調書一通
(前記第一の三ないし六の事件)
(二五丁)
6・23
9・45~20・45
一一時間
取調
検察官調書一通
(前記第一の七の事件)
(二二丁)
6・24
12・45~22・15
九時間三〇分
取調
同14・15の各供述調書
6・25
12・5~17・30
五時間二五分
取調
6・26
11・30~15・5
出18・10
三時間三五分
取調
家庭裁判所送致
(三) 被告人Y1に対する捜査官の取調方針と実情
前記(二)認定の如く、被告人Y1の警察段階における取調べを終始担当し、かつ五月三一日に本件殺人の事実に関し、人の倒れているのを見ながら本件輸送車を押し続けた旨の同被告人の供述を最初に得たD警部補は、自己の取調べないし供述録取の方針と実情につき、原審公判廷において、①前記捜査本部の基本的捜査方針並びに自己の凶悪犯担当の捜査経験に照らして、自分が右捜査本部に編入され、被告人Y1の取調担当を命ぜられたのは、主として本件殺人の事実の捜査を行わせるためであるとの自覚を有していたこと、②したがつて、被告人Y1を任意同行した際には、いまだ本件の殺人の事実に関する容疑は強くなかつたものの参考人として取り調べた段階で同被告人が本件輸送車を押した旨任意に供述したので、ただちに本件殺人の事実について取り調べる方針を固め、前記写真と本人の自認により証拠上明らかなbタクシー事件で逮捕した当日及びその翌日は、「作戦として」(記録二七六三丁)bタクシー事件及びa祭りに赴いた当日の同被告人の一連の行動について質問したが、その取調べはさほどの時間を要せずに終つたので、五月二五日ころから連日取調時間のほとんどすべてを本件殺人の事実の取調べに費し、同月三一日の前記供述に至つたが、それまでは、同被告人が倒れている人を見て本件輸送車から手を離した旨の供述を続けていたので、本件殺人の事実に関する供述調書は作成せず、同月三一日から六月五日ころまでの間に、本件殺人の事実に関する供述調書を集中的に合計六通(合計三三丁)作成したこと、③第一次逮捕・勾留期間中(合計二三日間)bタクシー事件についての取調べに要した時間は、全体を通じ日数に換算して二、三日程度にすぎず、右期間中に本件殺人の事実に関する警察段階の取調べを終了してしまつたため、第二次逮捕勾留期間中に取調べの必要を感じる事項は残つていなかつたが、検察庁における補充的取調のため検察官の指示により第二次逮捕がなされ、引き続き勾留手続がとられたこと、④本件殺人の事実に関する取調べに関し、上司からは、何日かかつてもよいとの示唆を受けていたが、証拠資料としては結局前記bタクシー事件についての写真以外は全く与えられず、取調べはもつぱら、同被告人が本件輸送車から手を離したとの供述内容の不自然性を追及するという取調方法に終始せざるを得なかつたことの各事実を供述しているのであるが、右供述内容は、前記(二)認定の取調経過、ことに留置人出入簿によつて認められる取調時間の状況、供述調書(説明書を含む)の作成状況とその内容、丁数等に照らして十分首肯するに足り、信用性が高いと認められる。
(四) 被告人Y1の取調状況についてのまとめ
以上(二)(三)で説示したところに従つて、bタクシー事件を被疑事実とする被告人Y1の第一次逮捕・勾留期間中の同被告人に対する取調べについて、取調時間の費消状況、作成された供述調書の録取内容及び丁数、取調べを担当した捜査官の意図等の諸事実を総合すると、右逮捕・勾留期間二三日間のうちbタクシー事件の取調べには、たかだか二、三日間程度を要しただけで、その余の期間は、もつぱら右事件以外の余罪、就中被告人Y1が否認していた本件殺人の事実、それも倒れている人を見て押していた本件輸送車から手を離したか否かの一点に集中した取調べに用いられていると認められ、しかも右取調べの状況は、第一次逮捕の当初から意図された結果であるということができる。
これに対し所論は、第一次逮捕・勾留期間中の被告人Y1の取調状況について、逮捕・勾留事実であるbタクシー事件の取調べに付随しないしはこれと併行して本件殺人の事実の取調べが行われたにすぎないと主張するけれども、以上説示したところに照らして到底採用することができず、前記認定とほぼ同旨の事実を認定した本件決定に証拠能力判断に際し、所論のいうような前提事実の誤認は認められない。
(五) 被告人Y2に関する取調べの客観的経過
原審で取り調べられた関係証拠、当審において取り調べた被告人Y2に関する留置人出入簿謄本、同被告人の検察官に対する供述調書一通(本件決定において証拠能力を否定されたものであるが、当審において供述経過を立証趣旨として取り調べたもの)及び捜査日誌、並びに当審証人E及び被告人Y2の当審公判廷における各供述を総合すると、同被告人の取調開始から終結に至るまでの客観的経過として、以下の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(1) 被告人Y2(逮捕当時一九才四月)は、昭和五一年三月兵庫県立k高校を卒業後、会社員として勤務していたものであつて、前科前歴は全くない。同被告人は、同年五月一五日午後九時ころ、友人とともにa祭りに現われる暴走族を見物するために出かけ、その際群衆心理に駆られて、原判示罪となるべき事実第二及び第三記載のとおりのタクシーに対する共同器物損壊行為等の犯行に及んだ。
(2) 五月一六日付新聞に掲載された写真に、原判示第二の四の如く機動隊に投石している群衆のなかに被告人Y2が写つており、また一般人の提供した写真中にもタクシーを転覆させている同被告人が写つていたため、通報により右写真中の人物が同被告人らしいとの情報をえた前記捜査本部は、ベテランの刑事である県警刑事部捜査第三課所属の巡査部長Eに同被告人に関する捜査を命じた。E巡査部長は、前記各写真を持つて学校や同被告人の居宅の近所について聞き込みを行つた結果、前記写真中の人物は同被告人であると断定し、七月一九日夕刻、同被告人に対し電話で翌朝県警本部へ任意出頭するよう求めた。
(3) 七月二〇日午前九時四〇分ころ県警本部に任意出頭した被告人Y2に対し、E巡査部長は、参考人取調べの形式で同被告人の五月一五日、一六日の行動を簡単に尋ね、さらに本件殺人の事実に関するポリグラフ検査を実施した後、あらためて詳細に質問したところ、同被告人は、原判示第二の一、三のタクシー二台に対する転覆行為であるcタクシー事件及びdタクシー事件のほか、本件輸送車を押した事実を認める供述をしたが、同巡査部長は、右のうち原判示第一の一、三の事実に関する供述調書を作成したうえ、右事実と同一の事実を被疑事実とする通常逮捕状を請求し、神戸地方裁判所裁判官から逮捕状の発付を受け、同日午後五時四〇分同被告人を逮捕した。
右逮捕後の弁解録取の手続の際に、被告人Y2は、タクシー二台を転覆させたほか本件輸送車を分離帯に突き当たるまで押した旨の供述をした。
(4) 翌二一日から、E巡査部長によつて、被告人Y2に対する本格的取調べが開始されたが、同日行われた勾留質問前検察官の作成した弁解録取書には、前記二台のタクシーを転覆させたほか、本件輸送車を押し続けた際、途中車輪が人を轢いたシヨツクがあつた旨の、また同日付の警察官調書には、身上、経歴のほか原判示第二の一、三、四の行為について概略の供述に加え、「大型車を押してカメラマンを轢き殺すというようなことまでやつてしまつた」との本件殺人の事実の概略を認める供述が記載された。
(5) 七月二二日被告人Y2は、前記逮捕事実と同一の事実で神戸地方裁判所裁判官の発した勾留状により刑事訴訟法六〇条一項二号、三号を勾留理由として勾留され、同日のE巡査部長の取調べに対し、原判示第二の三のdタクシー事件についての供述のほか、本件殺人の事実についての詳細の供述すなわち、本件輸送車の前部中央付近を押し、人が倒れているとの人声を聞いた後も押し続けた、その二、三〇秒後に手ごたえのあるシヨツクがあつた、との供述をし、その旨の供述を内容とする同日付警察官調書(別表(二)番号1)が作成された。
(6) 七月二三日以降二六日まで連日E巡査部長及び検察官の被告人Y2に対する取調べがなされたが、本件殺人の事実に関する供述調書は一通も作成されず、原判示第二の一、三、四の事実に関する警察官調書三通及び検察官調書一通が作成されたのみである。ところが同月二七日から、同被告人が同月三一日に逮捕・勾留事実について神戸家庭裁判所に送致され、同日右事実について観護措置決定を受けるまでの間は、連日の長時間にわたる取調べの結果七通の警察官調書、三通の検察官調書が作成されたが、内二通の警察官調書と一通の検察官調書を除くその余のすべてが本件殺人の事実に関する供述を含んでおり、別表(二)番号2ないし8のとおり原審公判廷において本件殺人の事実に関する証拠として請求されている。しかしいずれの調書の被疑罪名の記載にも別表(二)記載のとおり「殺人」の罪名は含まれていない。
(7) 前記の如く観護措置決定を受け少年鑑別所に収容中の被告人Y2に対し、八月一一日及び一二日に前記捜査本部所属のU巡査部長外一名が取調べを行い、本件殺人の事実を被疑事実として告知して供述を求め、同月一一日及び一二日付各供述調書(別表(二)番号9、10)を作成した。
(8) 八月一六日神戸地方検察庁検察官は、被告人Y2について、本件殺人の事実、原判示第二の二、四、第三の各事実について神戸家庭裁判所に追送致し、同裁判所は、同月二四日全受送致事実について検察官に送致する決定を行つたものの、同日観護措置を取り消したため、同検察庁検察官は、九月二七日本件殺人の事実及び原判示第二の一ないし四、第三の各事実と同一の公訴事実について、被告人Y2を原裁判所に在宅起訴した。
(9) 以上の取調経過のうち、被告人Y2が七月三一日家庭裁判所に送致されるまでの取調状況の要約は、次表のとおりである。
月日
出入監の時刻
(時・分)
出監時間(約)
出入監の理由
(取調状況)
本件殺人の事実に
ついて請求されている
供述調書
上記以外の供述調書等
7・20
入19・5
ポリグラフ検査
逮捕
警察官調書一通
(cタクシー、dタクシー事件)
(一二丁)
弁解録取書
7・21
8・35~18・25
九時間五〇分
取調
検察庁に本件送致
警察官調書一通
(身上、経歴等)
(九丁)
弁解録取書
7・22
9・15~12・45
12・50~22・30
三時間三〇分
九時間四〇分
勾留手続
取調
別表(二)番号
1の供述調書
勾留質問調書
7・23
10・0~19・45
九時間四五分
取調
警察官調書一通
(cタクシー事件)
(一八丁)
7・24
13・0~20・20
七時間二〇分
取調
警察官調書一通
(dタクシー事件)
(二〇丁)
7・25
9・40~15・20
五時間四〇分
取調
警察官調書一通
(原判示罪となるべき
事実第二の四の事件)
(一一丁)
7・26
14・40~18・45
四時間五分
取調
検察官調書一通
(cタクシー、dタクシー事件)
(一八丁)
7・27
9・20~20・20
一一時間
取調
同2の供述調書
7・28
9・51~20・15
一〇時間二四分
取調
同3の供述調書
7・29
4・57~7・55
9・55~15・5
18・20~21・40
二時間五八分
五時間一〇分
三時間二〇分
実況見分
立会
取調
同4・5の各供述調書
警察官調書一通
(原判示罪となるべき
事実第二の二の事件)
(六丁)
7・30
9・10~20・10
一一時間
取調
同6・7の各供述調書
警察官調書一通
(原判示罪となるべき
事実第二の四の事件)
(五丁)
7・31
13・5~16・10
出16・20
三時間五分
取調
家庭裁判所送致
同8の供述調書
検察官調書一通
(帰宅までの行動)
(七丁)
(六) 被告人Y2に対する捜査官の取調方針と実情
前記(五)認定の如く被告人Y2の警察段階における取調べを逮捕から七月三一日の家庭裁判所送致まで担当し、かつ七月二二日に同被告人の本件殺人の事実に関する前記供述を最初に得たE巡査部長は、自己の取調べないし供述録取の方針と実情につき、原審及び当審公判廷において、①被告人Y2を任意出頭させた際には、いまだ本件殺人の事実に関する容疑は強くなかつたものの、参考人として取り調べた段階で同被告人が本件輸送車を押した事実を任意に供述したので、ただちに本件殺人の事実についても取り調べる方針を固め、写真と本人の自認により証拠上明らかなcタクシー事件及びdタクシー事件で逮捕し、逮捕の日とその翌日は右両事件に関する取調べを行つたが、七月二二日はもつぱら本件殺人の事実について取り調べたところ、同被告人が人が倒れているとの人声を聞いた後も本件輸送車を押し続けた旨の供述をしたので、とりあえず早い時期に本件殺人の事実に関する供述調書を作成しておく必要があつた(記録二五三九丁)ため、その要点を記載した同日付供述調書を作成し、その後再び逮捕・勾留事実の取調べに戻り、同月二六日までに右事実についての取調べをすべて終了し、同月二七日から同月三一日まではその連日、長時間の取調時間の大半を本件殺人の事実に関する取調べと供述調書作成に費したこと、②供述調書記載の被疑罪名を被告人Y2に見せて、殺人罪にしないから安心して話すようにといつた説得は行つていないが、同被告人から人が倒れているとの人声を聞いたというと殺人罪にならないかとの趣旨の質問があり、それに対しては、明確な返答をしなかつたのであつて、その理由は、自分では判断がつきかねたためと、被疑罪名を決定するのは上司の権限であると考えていたためであることをそれぞれ供述しているのであるが、右供述内容のうち①の部分は前記(五)認定の取調経過、ことに留置人出入簿、捜査日誌によつて認められる取調べの状況、供述調書の作成状況とその内容、丁数等に照らして十分措信することができるが、②の部分は、不自然であつて、信用することができない。
すなわち、前記捜査本部のとつた基本的な捜査方針など前記一(一)に判示した事実によつて明らかなように、同本部所属の捜査員全員の関心が本件殺人の事実に集中し、殺意を持つて本件輸送車を押したか否かの供述を求めることを中心に被疑者の取調べを行つていたことは動かし難い事実であつて、E巡査部長ももとよりその地位、経歴に徴し、その例外とは考えられないうえ、少年であつた被告人Y2でさえ直感したように、人が倒れているとの人声を聞いたにもかかわらず本件輸送車を押し続けて轢過したと供述することが殺人の構成要件に該当する嫌疑を濃厚ならしめることは、E巡査部長において気づかないはずはないのである。まして前記(五)(4)で認定した如く逮捕の翌日には、カメラマンを「轢き殺す」というようなことをしたとの供述を録取しているのであるから、同巡査部長が被告人Y2の本件殺人の事実に関する一連の供述が殺人罪の嫌疑を生じさせるか否か判断しかねたとの供述は不自然極まりないといわなければならず、むしろ殺人罪について取り調べていることを十分自覚しつつ被疑者にそれを知られたくないためあいまいな返答をしていたのではないかとも考えられるのである。
これに反し、被告人Y2が原審及び当審公判廷において、七月二二日の取調べの際に、同巡査部長から供述調書の冒頭記載の被疑罪名を示されて、「殺人なんかつけへんから心配するな」との誘導を受け、人が倒れているとの声を聞いたとの事実を供述したとの弁解内容は、その供述内容それ自体にその信用性を疑うべき格別の事情はなく、前記E供述の不自然性に照らすと、少なくとも同被告人は、七月二二日の取調べの際E巡査部長から右のような詐言を用いて誘導された結果、人が倒れているという人声を聞きながら本件輸送車を押し続け、二、三十秒後に手ごたえのあるシヨツクがあつたとの前記供述をし、以後これを維持した合理的疑いが濃厚であるといわざるをえない。
(七) 被告人Y2の取調状況についてのまとめ
以上(五)(六)で説示したところによれば、被告人Y2の逮捕・勾留は、cタクシー事件及びdタクシー事件についてなされたものであるが、捜査官は、その逮捕・勾留期間を本件殺人の事実の取調べに流用する意図を当初から有しており、現に逮捕当初から同被告人に対し、本件殺人の事実についても取調べを行つているにもかかわらず、そのことを告知して弁明の機会を与えないばかりか、逆に殺人という重大犯罪の嫌疑で取り調べるのではない旨詐言を用いて同被告人から前記のような供述を早期に得てしまつた疑いが濃厚であるといわなければならない。そのため被告人Y1の場合と異なり外観上逮捕二日後の七月二二日に本件殺人の事実に関する右供述を得た後は、まず逮捕・勾留事実についての取調べを行い、その終了後、余罪である本件殺人の事実に移行したかのような通常の余罪取調と同様の取調状況となつているが、捜査官が逮捕の当初から逮捕・勾留事実による身柄拘束を利用して本件殺人の事実について同被告人を取り調べる意図を有しており、現にその逮捕・勾留期間の大半が本件殺人の事実の取調べにあてられたことは動かしがたい事実であると認められる。
これに対し所論は、被告人Y2に対する本件殺人の事実に関する取調べは、その外観どおり、逮捕・勾留事実の取調終了後、余つた身柄拘束期間を利用し、同被告人の利益のためにたまたま判明した余罪取調べをしたものと認定すべきであり、E巡査部長が詐言を用いたこともないと主張するけれども、以上説示したところに照らして到底採用し難く、前記認定とほぼ同旨の事実を認定した本件決定に、証拠能力判断に際しての前提事実の誤認は認められない。
二、被告人両名に対する取調べの適法・違法について
そこで、被告人Y1に対するbタクシー事件を被疑事実とする第一次逮捕・勾留期間中に、被告人Y2に対するcタクシー事件及びdタクシー事件を被疑事実とする逮捕・勾留期間中に、本件殺人の事実について被告人両名を取り調べ、これに関する不利益事実の供述を得た取調方法が適法であるか否かについて検討する。
【要旨】
(一) 一般に甲事実について逮捕・勾留した被疑者に対し、捜査官が甲事実のみでなく余罪である乙事実についても取調べを行うことは、これを禁止する訴訟法上の明文もなく、また逮捕・勾留を被疑事実ごとに繰り返していたずらに被疑者の身柄拘束期間を長期化させる弊害を防止する利点もあり、一概にこれを禁止すべきでないことはいうまでもない。しかしながら、憲法三一条が刑事の手続に関する適正性の要求を掲げ、憲法三三条、三四条及びこれらの規定を具体化している刑事訴訟法の諸規定が、現行犯として逮捕される場合を除いて、何人も裁判官の発する令状によらなければ逮捕・勾留されないこと、逮捕状・勾留状には、理由となつている犯罪が明示されなければならないこと、逮捕・勾留された者に対してはただちにその理由を告知せねばならず、勾留については、請求があれば公開の法廷でその理由を告知すべきことを規定し、いわゆる令状主義の原則を定めている趣旨に照らし、かつ、刑事訴訟法一九八条一項が逮捕・勾留中の被疑者についていわゆる取調受忍義務を認めたものであるか否か、受忍義務はどの範囲の取調べに及ぶか等に関する同条項の解釈如何にかかわらず、外部から隔離され弁護人の立会もなく行われる逮捕・勾留中の被疑者の取調べが、紛れもなく事実上の強制処分性をもつことを併せ考えると、逮捕・勾留中の被疑者に対する余罪の取調べには一定の制約があることを認めなければならない。とくに、もつぱらいまだ逮捕状・勾留状の発付を請求しうるだけの証拠の揃つていない乙事実(本件)について被疑者を取り調べる目的で、すでにこのような証拠の揃つている甲事実(別件)について逮捕状・勾留状の発付を受け、同事実に基づく逮捕・勾留に名を借りて、その身柄拘束を利用し、本件について逮捕・勾留して取り調べるのと同様の効果を得ることをねらいとして本件の取調べを行う、いわゆる別件逮捕・勾留の場合、別件による逮捕・勾留がその理由や必要性を欠いて違法であれば、本件についての取調べも違法で許容されないことはいうまでもないが、別件の逮捕・勾留についてその理由又は必要性が欠けているとまではいえないときでも、右のような本件の取調べが具体的状況のもとにおいて実質的に令状主義を潜脱するものであるときは、本件の取調べは違法であつて許容されないといわなければならない。
(二) そして別件(甲事実)による逮捕・勾留中の本件(乙事実)についての取調べが、右のような目的のもとで、別件の逮捕・勾留に名を借りその身柄拘束を利用して本件について取調べを行うものであつて、実質的に令状主義の原則を潜脱するものであるか否かは、①甲事実と乙事実との罪質及び態様の相違、法定刑の軽重、並びに捜査当局の両事実に対する捜査上の重点の置き方の違いの程度、②乙事実についての証拠とくに客観的な証拠がどの程度揃つていたか、③甲事実についての身柄拘束の必要性の程度、④甲事実と乙事実との関連性の有無及び程度、ことに甲事実について取り調べることが他面において乙事実についても取り調べることとなるような密接な関連性が両事実の間にあるか否か、⑤乙事実に関する捜査の重点が被疑者の供述(自白)を追求する点にあつたか、客観的物的資料や被疑者以外の者の供述を得る点にあつたか、⑥取調担当者の主観的意図がどうであつたか等を含め、具体的状況を総合して判断するという方法をとるほかはない。
(三) これを本件についてみるに、前記第一、一において認定した事実から明らかな以下の諸事由、すなわち①被告人Y1の第一次逮捕・勾留事実であるbタクシー事件、被告人Y2の逮捕・勾留事実であるcタクシー事件及びdタクシー事件は、犯罪事実自体からただちに逮捕・勾留の理由又は必要性がないと断定しうるほど軽微な事件ではないけれども、本件殺人の事実と比較して、その法定刑がはるかに軽いのはもとより、その罪質及び態様においても大きな径庭のある軽い犯罪であるだけでなく、昭和五一年度a祭り開催期間中に発生した一連の事犯の捜査にあたつた捜査官の関心は、既述の事情から、主として本件殺人の事実の解明に向けられていたこと、②そして、本件殺人の事実の捜査については、本件輸送車を押した人物を写真等の客観的資料で特定するだけでは足りず、本件輸送車を押したことが判明した被疑者について、さらに殺意を認めるための前提事実としてこれを押した方向にA記者が昏倒している事実を認識しながらあえてこれを押し続けたということを証明する証拠が収集されなければならないが、この点を裏づける客観的証拠は非常に乏しく、いきおい被疑者の供述に頼らざるをえなかつたため、捜査は困難を極め、現に前記のように逮捕被疑者一五五名のほとんど全員に無作為的に本件殺人の事実に関するポリグラフ検査を実施するというような状況であつたこと(なお捜査の結果殺人罪として処理しえたのは、被告人両名を含む少年三名のみであつたが、そのうち被告人両名以外の少年は、家庭裁判所において少年の供述に信用性がないとして不処分決定がなされている。)、③被告人両名は、いずれも逮捕当時少年であり、前科前歴は皆無で身元も安定しておるうえ、逮捕前すでに右各逮捕・勾留事実を認め、その旨の概略的な供述を録取した調書も作成され、その供述を裏づける客観的証拠である写真も存在していたのであつて、これらの点よりみると、被告人両名を右各逮捕・勾留事実について逮捕・勾留する理由と必要性は、けつして高度のものではなく、在宅取調べによつて捜査目的の達成が可能であつたとも考えられること、④しかも、右各逮捕・勾留事実と本件殺人の事実とは、右a祭り開催中に発生した一連の事犯の一部であるという程度の広い意味では社会的関連性を有しないとはいえないが、罪質、被害者、犯行時刻、場所を異にし、右各逮捕・勾留事実の取調べをすすめることが本件殺人の事実についての取調べにもつながるというような密接な関連性は存在せず、前者についての取調べは後者についての取調べのきつかけを提供するという程度の関係にあるにすぎないのであつて、現に被告人両名に対する右各逮捕・勾留事実についての取調べは手早くすまされ、本件殺人の事実は、それらとは別個の事実として取調べがなされていること、⑤また、被告人両名は、逮捕前から本件輸送車を押したことのあつた事実自体は争つていなかつたから、捜査の重点は、客観的資料の収集というより、被告人両名から、人が倒れていたことを認識しながらその方向に、したがつて人を轢過することを認識しながら本件輸送車を押し続けたか否かについての供述を得ることにおかれていたこと(なお、この点は、被告人Y1がD警部補に対しては、本件輸送車を押しはじめてから倒れているA記者に気づいたが、同車右後輪で同記者を轢くまで一貫して同車を押し続けた旨供述しながら、検察官の取調段階に至つて同車を押しはじめたという時点以後同被告人が同車から離れている事実を示す写真の存在が覚知されたため、これに符合するように、いつたん同車を押しはじめた後、割り込んできた他の男にはじき出されるようにして同車を離れ、その後再び同車にへばりついて押したと供述が変更されたと認められることや、被告人Y2が、捜査官に対し、本件輸送車の前部正面から後方に向けて同車を押していた際人が倒れているという声を聞いただけで、その倒れている位置その他の具体的状況を一切聞知していないのに、場合によつては倒れている人を轢いてしまうかもしれぬと思つて同車を押し続けた旨飛躍のある供述をしていることにもあらわれている。)、⑥さらに、被告人Y1の第一次逮捕・勾留期間、被告人Y2の逮捕・勾留期間中の取調時間の大半が本件殺人の事実についての取調べに費されているところ、被告人両名の取調べを担当したD警部補、E巡査部長の両名とも、右各逮捕の当初から右各期間を本件殺人の事実の取調べに積極的に利用しようという意図を有していたこと、以上の諸事由を踏まえて、さらに関係証拠を検討すると、被告人両名に対する右各逮捕・勾留は、その理由又は必要性が欠けているとまでは断定しえないとしても、そしてまた右逮捕・勾留期間中においては、それぞれその逮捕・勾留事実についても被告人両名の取調べがなされているけれども、その各期間中の取調時間の大半が用いられた被告人両名に対する本件殺人の事実についての取調べは、これを実質的にみれば、もつぱらいまだ逮捕状・勾留状の発付を請求しうるだけの証拠の揃つていない本件殺人の事実について被告人両名を取り調べる目的で、すでにこのような証拠の揃つていた右各逮捕・勾留事実について逮捕状・勾留状の発付を受け、同事実に基づく逮捕・勾留に名を借りて、その身柄拘束を利用し、あたかも本件殺人の事実について司法審査を受け逮捕状・勾留状の発付を受けたと同様の状態のもとで、同事実ことにその殺意に関する不利益事実の供述を追求したものであるということができる。これに加えて、被告人Y1については、第一次逮捕・勾留に続いて、本件殺人の事実等に基づく逮捕状・勾留状の請求発付がなされ(第二次逮捕・勾留)、実質的な逮捕・勾留のむし返しが行われた(もつとも、それは前記準抗告決定の限度で司法的抑制を受けた。)こと、被告人Y2については、その取調べに際し捜査官の意図を察知されないようにするため、あたかも本件殺人の事実については、殺人罪として処理することを目的とした取調べをしないかのような詐言が用いられ、同被告人の防禦権行使が妨げられた疑いが濃厚であることなどの諸事情をも併せ考えると、右各逮捕・勾留期間中における被告人両名に対する本件殺人の事実に対する取調べは、具体的状況に照らし、実質的に憲法及び刑事訴訟法の保障する令状主義を潜脱するものであつて、違法で許容されえないものといわなければならない。
三 別表(一)(二)記載の各供述調書の証拠能力について
(一) 捜査官が、被告人Y1に対する第一次逮捕・勾留期間、被告人Y2に対する逮捕・勾留期間中に、被告人両名を本件殺人の事実について取り調べて作成した各供述調書、すなわち、別表(一)番号1ないし13、別表(二)番号1ないし8の各供述調書は、前記のようにその取調べに存する違法性が令状主義の潜脱という重大なものであつて、司法の廉潔性の保持及び将来における同様の違法な取調方法の抑制という見地から、違法収集証拠としてその証拠能力は否定されるべきである。
(二) 被告人Y1に関する別表(一)番号14、15の各供述調書は、同被告人に対する第二次勾留期間中に、捜査官が本件殺人の事実について同被告人を取り調べて作成したもの、同被告人に関する別表(一)番号16ないし18の各供述調書は、同被告人に対する家庭裁判所の観護措置決定が、同裁判所の検察官送致決定に伴つて勾留とみなされた期間内に、捜査官が本件殺人の事実について同被告人を取り調べて作成したものであり、被告人Y2に関する別表(二)番号9、10の各供述調書は、同被告人が家庭裁判所の観護措置を受けている間に、捜査官が少年鑑別所に赴き本件殺人の事実について同被告人を取り調べて作成したものであるが、いずれも、被告人Y1の第一次逮捕・勾留及び被告人Y2の逮捕・勾留中に同被告人らを本件殺人の事実について取り調べて各供述調書(第一次証拠)を作成した捜査官ないしこれと一体と認められる捜査機関が同様の捜査目的で同一事実につき同被告人らを取り調べて作成した供述調書(第二次証拠)である。そして第一次証拠が、前記のように憲法及び刑事訴訟法の保障する令状主義を実質的に潜脱して被告人両名を取り調べた結果得られたという重大な違法性を帯びるものである以上、右のような捜査機関が、第一次証拠の収集時から実質上継続して身柄を拘束されている被告人両名を取り調べて作成したこのような第二次証拠も、特段の事情のない限り、第一次証拠と同様の違法性を承継するものと解するのが、司法の廉潔性の保持と将来における違法捜査の抑制という目的にも合致し、正当であると考えられ、本件では右各供述調書を証拠として許容すべき特段の事情も認められないので、第二次証拠である右各供述調書の証拠能力も、すべて否定すべきものと解する(なお、被告人Y1に関する別表(一)番号14、15の各供述調書は、前記準抗告審決定によつて、同被告人に対する第二次勾留による身柄の拘束が本件殺人の事実の取調べに利用されてはならない旨指摘されながら、右勾留期間内にあえて同被告人を右事実について取り調べて作成したものであつて、実質的な逮捕・勾留のむし返しにより法定の身柄拘束期間の制限を潜脱してなされた取調べの結果獲得されたという違法性をも帯びているものと考えられる。)。
四 結論
してみると、本件決定が別表(一)(二)記載の各供述調書の証拠能力を否定したのは、結論において正当であり、その他所論にかんがみ更に検討しても原判決に所論の訴訟手続の法令違反はない。
よつて刑事訴訟法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石松竹雄 裁判官 石田登良夫 裁判官 安原浩)
別紙(原判示罪となるべき事実)
被告人Y1は本件当時自動車整備工として働くとともに神戸市立h高校定時制四年生に在学中であつたもの、被告人Y2は昭和五一年二月、兵庫県立k高校を卒業し、本件当時l株式会社で稼働していたものであるが、昭和五一年五月一五日夜、いずれも暴走族の暴走を見物する目的でそれぞれの友人と共にf駅周辺に繰り出し、同日午後九時半ころから始まつた前記の騒乱状態を見るうち興奮してこれに加わることとし、
第一 被告人Y1は
一 同日午後一一時すぎころ、神戸市<以下省略>付近の神戸市道中央幹線西行車道において、タクシー営業中のF運転手にかかるbタクシー株式会社所有の事業用乗用普通自動車(神戸○○あ○○○○号)が多数の者に取り囲まれて停車し、右F及び乗客が危険を感じて一時下車した際、右多数の者と共謀のうえ、同人らとともに、同車の車体を押して転覆させ、足蹴りするなどし、その車体を大破(損害額約六九万六、一三〇円)させて同車の運行を不能ならしめ、もつて多衆の威力を示し、かつ数人共同して右bタクシー株式会社所有の器物を損壊するとともに、威力を用いて右bタクシー株式会社のタクシー営業の業務を妨害し、
二 昭和五一年五月一六日午前一時すぎころ、同市<以下省略>葺合警察署小野柄派出所前路上において、石一個を右派出所北側窓ガラスに投げつけ、右ガラス一枚(価格五、六〇〇円相当)を破壊し、もつて兵庫県警察本部長管理にかかる公有財産である器物を損壊し、
三 同日午前二時ころ、同市<以下省略>付近の国道二号線東行車道において、タクシー営業中のG運転にかかるmタクシー株式会社所有の事業用乗用普通自動車(神戸○○あ○○○○号)が群衆から投石を受けて停車し、右G及び乗客が危険を感じて一時下車した際、多数の者と共謀のうえ、同被告人以外の者らにおいて同車の車体を足蹴りし、同車を押して転覆させ、その場に居た氏名不詳者において同被告人が手渡したテイツシユペーパーに火をつけて同車内に投げ入れてその車体を焼燬(損害額約一五二万七、六〇〇円)して同車の運行を不能ならしめ、もつて多衆の威力を示し、かつ数人共同してmタクシー株式会社所有の器物を損壊するとともに、威力を用いて右mタクシー株式会社のタクシー営業の業務を妨害し、
四 同日午前二時ころ、同市<以下省略>の三付近の国道二号線東行車道において、タクシー営業中のH運転にかかるnタクシー株式会社所有の事業用乗用普通自動車(神戸○○い○○○○号)が群衆から投石を受けて停車し、右H及び乗客が危険を感じて一時下車した際、多数の者と共謀のうえ、同人らとともに同車を押して転覆させ、同車内に火のついた紙を投げ入れて点火し、その車体を焼燬(損害額約一七五万四、八〇〇円)して同車の運行を不能ならしめ、もつて多衆の威力を示し、かつ数人共同して右nタクシー株式会社所有の器物を損壊するとともに、威力を用いて右nタクシー株式会社のタクシー営業の業務を妨害し、
五 同日午前二時一〇分ころ、同市<以下省略>付近の国道二号線東行車道において、観光旅行客一八名を乗せ運行中のI運転にかかるoタクシー株式会社所有の事業用乗合大型自動車(香○○か○○○号)を認めるや、多数の者と共謀のうえ、同人らとともに同車に対し投石し、同車のフロントガラス等を破壊(損害額約五六万四、五〇〇円)して同車の運行を不能ならしめ、もつて多衆の威力を示し、かつ数人共同して右oタクシー株式会社所有の器物を損壊し、威力を用いて右oタクシー株式会社の旅客運送営業の業務を妨害するとともに、右暴行により乗客らのうち、Jに対し加療約一六日間を要する左上腕挫傷、前頭部挫傷及び左背部挫傷の、Kに対し加療約一〇日間を要する顔面挫傷及び左鼻翼部切創の各傷害を負わせ、
六 同日午前三時三〇分ころ、同市<以下省略>付近の国道二号線西行車道において、タクシー営業中のpタクシー株式会社運転手L運転にかかるq株式会社所有の事業用乗用普通自動車(大阪○○う○○○号)が多数の者に取り囲まれて停車し、右L及び乗客が危険を感じて一時下車した際、右多数の者と共謀のうえ、同被告人以外の者らにおいて同車の車体を足蹴りし、同車を押して転覆させ、同被告人において同車内に火のついた紙を投げ入れて点火し、その車体を焼燬(損害額約九二万三、四四六円)して同車の運行を不能ならしめ、もつて多衆の威力を示し、かつ数人共同してq株式会社所有の器物を損壊するとともに、威力を用いて右pタクシー株式会社のタクシー営業の業務を妨害し、
七 同日午前四時二〇分ころ、同市<以下省略>葺合警察署前路上において、多数の者と共謀のうえ、同人らとともに、同警察署庁舎に向け投石して同庁舎南側窓ガラス四枚(価格合計約四万六、〇八〇円相当)を破壊し、もつて数人共同して兵庫県警察本部長管理にかかる公有財産である器物を損壊し、
第二 被告人Y2は
一 昭和五一年五月一五日午後九時一〇分ころ、神戸市<以下省略>付近路上において、タクシー営業中のM運転にかかるcタクシー株式会社所有の事業用乗用普通自動車(神戸○○い○○○号)が多数の者に取り囲まれて停車し、右Mが危険を感じて一時下車した際、右多数の者と共謀のうえ、同被告人らにおいて同車の車体を足蹴りし、同車を押して転覆させ、同被告人以外の者らにおいて同車内に火のついた紙を投げ入れて点火し、同車を焼燬(損害額約一〇三万二、五六〇円)して同車の運行を不能ならしめ、もつて多衆の威力を示し、かつ数人共同して右cタクシー株式会社所有の器物を損壊するとともに威力を用いて右cタクシー株式会社のタクシー営業の業務を妨害し、
二 同日時、同場所において、右自動車を転覆させた際、同車内から路上に散乱した右cタクシー株式会社所有にかかる同車の売上金中、現金約三六〇円を窃取し、
三 同日午後九時一五分ころ、同所付近路上において、タクシー営業中のN運転にかかるdタクシー株式会社所有の事業用乗用普通自動車(神戸○○あ○○○○号)が多数の者に取り囲まれて停車し、右Nが危険を感じて一時下車した際、右多数の者と共謀のうえ、同人らとともに同車の車体を足蹴りし、同車を押して転覆させるなどし、その車体を大破(損害額約八三万九、三三〇円)させて同車の運行を不能ならしめ、もつて多衆の威力を示し、かつ数人共同して右dタクシー株式会社所有の器物を損壊するとともに、威力を用いて右dタクシー株式会社のタクシー営業の業務を妨害し、
四 同日午後一〇時ころ、同所付近の路上において、多数の者と共謀のうえ、暴走族の暴走行為に伴つて発生する群衆の違法行為の規制などの職務に従事していた兵庫県警察本部警備部機動隊第一中隊第一小隊(小隊長警部補O以下二三名)所属の警察官らに対し、投石するなどの暴行を加え、もつて右警察官らの職務の執行を妨害し、
第三 被告人Y1及び被告人Y2は、昭和五一年五月一五日午後一一時三〇分ころ、神戸市<以下省略>付近の神戸市道中央幹線西行車道において、それより先三宮交差点付近の交通規制に従事するため大型輸送車(兵○ち○○○号)に乗車して同所に到着した葺合警察署警ら第二係長警部補Pら一五名の警察官のうち、運転手のQ巡査を除く一四名の警察官が一旦降車したところ、群衆から投石され、木の棒で突くなどの暴行を受けたため、これを避けるため幌に覆われた右輸送車の後部荷台部分に再乗車した際、多数の者と共謀のうえ、被告人ら以外の者において同輸送車にむかつて石、空カン、棒切れ、火のついた紙等を投げ、運転席の屋根、及び、ボンネツトに飛び乗り、木の棒で車体を叩き、幌内の右警察官らを木の棒で突き、同車を押すなどの、被告人Y1において同車のフロントガラスに対して石及びナンバープレートを投げつけ、同車の方向指示器を引きちぎり、同車を押すなどの、被告人Y2において同車に対し投石し、車体を足蹴りし、同車を押すなどの暴行を加え、よつて同車のフロントガラスなどを破壊し、もつて多衆の威力を示し、かつ数人共同して兵庫県警察本部長管理にかかる公有財産である器物を損壊するとともに、右警察官らの職務の執行を妨害し、右暴行により右警察官らのうち次表記載の者五名に同表記載の各傷害を負わせ
たものである。
番号
被害者
氏名
傷害名
加療(又は全治)
日数
1
P
右手関節捻挫、左肩胛部・左上腕部・
右下腿部・右前腕部打撲傷
加療約四六日間
2
Q
後頭部打撲傷、右肩部・上腕部挫傷、
左大腿部打撲擦過傷
〃約七日間
3
R
右肘部・左胸部・左足関節部挫傷
〃約七日間
4
S
右大腿部挫傷
〃一五日間
5
T
左肘部打撲傷
全治約三日間
別表(本件決定において証拠能力が否定された供述調書一覧表)作成年は、いずれも昭和五一年。員は、司法警察員、検は、検察官、暴力行為法は、暴力行為等処罰に関する法律、公妨は、公務執行妨害、二号書面は、刑事訴訟法三二一条一項二号該当書面の各略語である。
(一) 被告人Y1関係
番号
作成年月日、
供述録取者
調書に記載された
被疑罪名
丁数
備考
1
5・31・員
暴力行為法違反等
6
2
6・1・員
公妨等
2
3
6・2・検
暴力行為法違反等
15
本件殺人の事実関係部分のみ却下
被告人Y2関係で二号書面として請求
4
6・4・員
公妨等
13
本件殺人の事実関係部分のみ却下
5
6・5・員
〃
3
6
6・5・員
〃
6
本件殺人の事実関係部分のみ却下
7
6・7・員
公妨等
3
8
6・7・検
暴力行為法違反等
25
本件殺人の事実関係部分のみ却下
被告人Y2関係で二号書面として請求
9
6・9・員
公妨等
9
本件殺人の事実関係部分のみ却下
10
6・12・員
〃
18
〃
11
6・14・員
〃
4
12
6・14・検
暴力行為法違反等
8
本件殺人の事実関係部分のみ却下
13
6・14・検
〃
3
14
6・24・検
〃
15
15
6・24・検
〃
4
16
7・14・検
殺人等
8
本件殺人の事実関係部分のみ却下
17
7・15・検
〃
3
〃
18
7・15・検
〃
2
〃
(二) 被告人Y2関係
番号
作成月日、
供述録取者
調書に記載された
被疑罪名
丁数
備考
1
7・22・員
暴力行為法違反、
威力業務妨害、
公妨、傷害
19
本件殺人の事実関係部分のみ却下
2
7・27・員
暴力行為法違反、
公妨、傷害
14
〃
3
7・28・員
〃
23
〃
4
7・29・員
〃
3
〃
5
7・29・検
暴力行為法違反等
14
〃
6
7・30・員
暴力行為法違反、
公妨、傷害
6
〃
7
7・30・員
暴力行為法違反、
公妨、傷害
17
本件殺人の事実関係部分のみ却下
8
7・31・検
暴力行為法違反等
11
本件殺人の事実関係部分のみ却下
被告人Y1関係で二号書面として請求
9
8・11・員
殺人等
10
8・12・員
〃